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【和装本から広がる府川次男先生の世界】第1回:創作和装本

2018/08/27

和紙の店 大直 吉祥寺ロフト店にて、和装本製作の講師としてお招きしている 府川次男先生。
和装本の他にも書や拓本の各分野で高い評価を受けてきた一方、ご自身の経歴を「道楽人生」と振り返ります。

和装本とは、「中国より伝わり、日本で古くから行われている装丁の本」(*)のことをいいます。和装本とひとことに言っても、紙に穴をあけて糸を使う糸綴じ本や、紙をのりで貼り合わせた粘葉本(でっちょうぼん)、アコーディオンの蛇腹のように作る折り本などがあります。糸綴じ本で代表的なもののひとつ、四つ目綴じは、穴を4か所あけて綴じることからその名前がついています。
*府川次男(2003)『はじめての和装本ー身近な道具で作れます』文化出版局


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さまざまな種類の和装本

府川先生にとっての和装本とは、一体どんなものなのでしょうか。
連載「和装本から広がる府川次男先生の世界」では、学校教諭、社会教育の講師、創作和装本作家としてのそれぞれの顔に迫り、府川先生と先生のつくる和装本の魅力を探っていきます。

それはまるで米粒のように

「世界一小さい和綴じの本。」そう言って広げた府川先生の手のひらには、とても小さな和装本がそっと乗っていました。

米粒ほどの大きさのものから、大豆くらいの大きさのものまであります。いわゆる"豆本"です。

府川先生のつくった和装本は、どんなに小さくても通常の和装本製作と同じ工程を踏んでいるそうです。表紙や見返しがついているのはもちろん、綴じた本の補強をする角裂(かどぎれ)や、タイトルを書く台せんが、きちんと付いています。

先生の手の平に乗った小さな和装本は、軽く息が当たっただけで、手から転げ落ちてしまいます。

府川先生の手のひらに乗った小さな和装本 府川先生の手のひらに乗った小さな和装本

「これ、もう今はできませんよ。だって針じゃダメなんですよ」
糸綴じ本は通常、紙にあらかじめ穴をあけておき、針を使って糸を通し、本に仕立てていきます。しかし、紙が小さすぎて、糸を通すための針が通らなかったのだとか。

「針を使わずに、糸をこっちからつついてそっちから引っ張り出す、なんてね。1冊作るのに何十冊も作るんですよ。1つやっと成功してこれだな。紙を揃えるだけでも大変で」

こだわりの糸綴じノート

ノートを綴じる糸でさまざまな模様が描かれています ノートを綴じる糸でさまざまな模様が描かれています

サイズにこだわった豆本のほかに、綴じ糸を工夫した和綴じのノートブックもあります。
さまざまな色の綴じ糸を組み合わせて、ひし形や渦巻きのような模様を描いた作品。"春夏秋冬"の漢字を糸で表現した和装本。1冊に1種類の干支の漢字をあしらった十二支のシリーズもあります。

糸綴じ本の基本形、四つ目綴じよりもたくさんの穴をあけ、そこに糸を通して模様や文字を描いています。表紙の紙や布に合わせ、綴じ糸の色づかいや配色に細やかな心配りが表れているようです。

春夏秋冬の糸綴じノートにはやはり季節のあれこれを記すのが似合いそう。干支文字のノートは今年の干支を選んだり、自分の干支を選んだりと、選ぶ楽しさがありそう......などと、見ているだけでワクワクしてきます。

干支の文字が書かれたノート 干支の文字が書かれたノート

和装本が小さな展示会場になる

和装本製作は無地の和紙を綴じるノートブック製作に限りません。先生ご自身の作品を一冊にまとめることもあります。

「葉経集(ようきょうしゅう)。葉っぱのお経。まぁ、そんな言葉はないんでしょうけど」
葉経集と名付けられたその本を開くと1ページに1枚、柿やモミジ、イチョウの葉が貼ってあります。手のひら大の葉の裏に、細く繊細な筆致で整然とお経がつづられています。

「お経を葉っぱに書いて。これは柿の葉。裏に毛のあるものとないものと。枯れると毛がなくなるものと。今まで柿の葉はみんな同じようなものと思っていたけど、みんな違う。葉脈が厚いのと弱いのと......」

葉っぱにお経が書かれている

しかし、どうして葉っぱにお経を書こうと思ったのでしょう。
「葉っぱに写経をするという記事があった。この時ちょうど柿の葉っぱの話が出ていて。それで、あそっか、じゃあ葉っぱに書けばいいんだっていう風になって」
葉経集の最後にはこの作品をつくるきっかけになった小冊子が挟まれ、ふせんが貼られたページには、葉にお経を記す人の挿絵が添えられていました。

「色んな葉っぱに書いたんですけどね。イチョウばっかりじゃなくって。桜でもなんでもね。それはいろいろイタズラできるんですよね。やろうと思えば。押し花みたいに乾燥させて。書ける葉っぱ、書けない葉っぱありますけどね。

葉経集にはさまざまな種類の葉っぱが収められています。作品のきっかけになった小冊子も一緒に保管されていました 葉経集にはさまざまな種類の葉っぱが収められています

拓本。石碑や器物に刻まれた文字や文様を紙に写しとったもの(*)。その技法を用いて、絵を描き版を彫って、紙に写し出した仏像の作品集もあります。見返しには府川先生にとっての拓本とは何かということが綴られ、作品の一つひとつにはタイトルが添えられていました。
*明鏡国語辞典

切手収集のコレクションも素敵です。魚シリーズや干支シリーズなどに分類され、それぞれ1冊の本になっています。
ページごとに貼ってある切手は、一つひとつ透明のフィルムで保護され、大切に保管されていました。切手は、紙を蛇腹に折りたたんだ 折り本に収められていたので、本を広げてコレクションを一覧することもできます。

コレクションや作品を1人で1点ずつじっくりと鑑賞したり、本に収めたすべてをずらりと広げ、誰かと感想を共有したり。作品集は本であると同時に、小さな展示会場のようになるのです。

切手のコレクションが収められた折本。カテゴリーごとに分類されています 切手のコレクションが収められた折り本。カテゴリーごとに分類されています

府川先生の作品集に書かれている本の題字や、写経の文字。毛筆で書かれた流麗な筆致が、作品集をぐっと引き締めています。
次回 第2回 は、教育者、書家、講師として歩んできた先生の経歴にスポットを当てていきます。

葉経本の題字。府川先生の直筆によるもの 葉経集の題字。府川先生の直筆によるもの

▼第2回はこちらからお読みいただけます

【目次】

【プロフィール】
府川 次男(ふかわ・つぎお)
長年学校教育に携わり、書写書道の研究会にて要職を歴任。教職を退いたのち、書や拓本、和装本製作の講師として各所で指導を重ねる。現在は、和紙の店 大直 吉祥寺ロフト店 にて和装本の講師としてお招きしている。2018年8月現在、89歳。